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medical praxis - web版 医学ノート - 国家試験対策

学問の上で大いに忌むべきは、したり止めたりである。したり止めたりであれば、ついに成就することはない。

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肝胆膵 40 膵臓疾患

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→ 肝胆膵系 目次

Chapter 40 膵臓疾患

40.1 膵臓の形成異常

輪状膵 annular pancrea

膵臓が十二指腸を取り囲む。十二指腸が狭窄を起こし、通過障害を招く。

迷入膵, 副膵, 異所性膵 aberrant pancreas

膵臓と完全に連絡のないところに異所性に存在する膵組織。一般に無症状で、消化管では漿膜側に多い。

膵体尾部欠損症

膵管非癒合

嚢胞膵 pancreatic cyst

  • 先天性嚢胞
    • 単純嚢胞
    • 多発性嚢胞
    • 嚢胞線維症
      cystic fibrosis 全身の外分泌腺をおかす、常染色体劣性の遺伝性疾患。膵臓では膵管をつまらせて組織の線維化と嚢胞を招く。
    • 皮様嚢胞
  • 炎症性嚢胞症
    • 仮性嚢胞
    • 貯留嚢胞
    • 寄生虫性嚢胞
  • 腫瘍性嚢胞症
    • 嚢胞腺腫
    • 嚢胞腺癌
    • solid and cystic tumor

40.1.1 迷入膵, 副膵, 異所性膵 aberrant pancreas

典拠:標準外科学 8版 [84, p.636] ,
典拠:NIM 消化器病学 4版 [60, p.150,p.670] ,
典拠:最新内科学大全:膵炎 [40, p.303]

概念

膵臓と完全に連絡のないところに異所性に存在する膵組織であり、胎生期の膵原基の迷入に起因する。消化管では漿膜側に多く、胃の幽門部に好発して胃粘膜下腫瘍の形態をとる。

Heinlich 分類

  • I 型: ランゲルハンス島、腺房細胞、導管を有する
  • II 型: 腺房細胞、導管を有する この型がもっとも多い。
  • III 型: 導管のみを有する

症状

一般に無症状である。

40.1.2 膵管胆管合流異常, 膵胆管合流異常 pancreatico-biliary maljunction

典拠:標準外科学 8版 [84, p.636] ,
典拠:NEW 外科学 2版 [64, p.653]

概念

膵管と胆管が十二指腸乳頭括約筋の支配を受けないで十二指腸の壁外で合流している先天的な発生異常をいう。東洋女性に多い。

病態生理

十二指腸乳頭括約筋の支配を受けないため、胆管に膵液が逆流したり、あるいは膵管に胆汁が逆流し、胆管拡張症・胆管炎・閉塞性黄疸・急性膵炎などさまざまな病態を惹起する。

合併症

  • 先天性胆道拡張症
  • 胆管癌
    胆道拡張を伴なう症例に多い。
  • 胆嚢癌
    胆道拡張を伴なわない症例に多い。

治療

外科的切除が原則となる。

40.2 膵嚢胞症 pancreatic cyst

典拠:標準外科学 8 版 [84, p.642] ,
典拠:組織病理アトラス [82, p.149] ,
典拠:最新内 科学大全:膵炎 [40, p.258] ,
典拠:最新内科学大全:膵腫瘍 [41, p.167]

概念

膵液・滲出液・粘液・血液などの液状内容物を容れた嚢胞が膵臓内あるいは周囲に形成されたものをいう。

分類

  • 仮性膵嚢胞
    内腔が上皮ではなく結合組織で覆われるもので、真性嚢胞に比べて圧倒的に多い。しばしば急性膵炎が原因となり、自然に消失することが多い。
  • 真性膵嚢胞
    内腔が上皮で覆われるもので、上皮から癌化することがある。
    • 腫瘍性嚢胞
      腺房細胞や膵管上皮細胞を発生母地とする腫瘍。
      • 嚢胞腺腫 cystadenoma
      • solid and cystic tumor
      • 嚢胞腺癌
    • 非腫瘍性嚢胞
      • 先天性嚢胞
      • 貯留嚢胞, 鬱滞嚢胞
      • 寄生虫性嚢胞

原因

  • 膵炎
  • 悪性腫瘍
  • 先天性
  • 感染性

治療

  • 保存的治療
    原則として仮性膵嚢胞が対象となる。
  • 外科療法
    仮性膵嚢胞に対しては瘻形成術、癌化の危険がある真性膵嚢胞に対しては摘出術を行なう。

40.2.1 真性膵嚢胞

典拠:標準外科学 8版 [84, p.642] ,
典拠:NEW 外科学 2版 [64, p.665] ,
典拠:最新内 科学大全:膵腫瘍 [41, p.168]

概念

内腔が上皮で覆われるもので、上皮から癌化することがある。

分類

  • 腫瘍性嚢胞
    腺房細胞や膵管上皮細胞を発生母地とする腫瘍。
    • 嚢胞腺腫 cystadenoma
      漿液性嚢胞腺腫と粘液性嚢胞腺腫があり、後者はしばしば悪性化して嚢胞腺癌となる。
    • solid and cystic tumor
    • 嚢胞腺癌
  • 非腫瘍性嚢胞
    • 先天性嚢胞
      腺管組織の迷入に起因し、肝臓や腎臓の先天性嚢胞と合併する。
      • 膵嚢胞性線維症
    • 貯留嚢胞, 鬱滞嚢胞
      膵石や炎症などで膵管が閉鎖することによって膵液が鬱滞し、管腔が拡張して嚢胞を形成する。
    • 寄生虫性嚢胞

症状

腫瘤が小さいうちは無症状であり、増大してはじめて腹部腫瘤として気づかれることが多い。

治療

真性嚢胞は癌化する危険があるため、原則として外科的に切除する。

膵嚢胞性線維症 cystic fibrosis of the pancreas

典拠:Essentials Of Pediatrics. 3ed [25, p.479] ,
典拠:Concise Pathology [14, p.671] ,
典拠:Diagnosis And Treatment In Gastroenterology [10, p.443] ,
典拠:NIM 消化器病学 4版 [60, p.670]

概念

全身の外分泌腺異常を来たす遺伝性疾患であり、膵臓では膵管を閉塞して慢性膵炎をもたらす。

病態生理

Cl− チャネルの異常により膵液の分泌障害を来たし、膵管を閉塞して慢性膵炎をもたらす。また高濃度の電解質を含む汗を多量に分泌して、電解質異常を来たす。

合併症

  • メコニウムイレウス meconium ileus
    新生児において胎便が粘稠なために腸閉塞症を来たしたもの。

40.2.2 仮性膵嚢胞, 膵仮性嚢胞 pancreatic pseudocyst

典拠:標準外科学 8版 [84, p.642] ,
典拠:最新内科学大全: 膵腫瘍 [41, p.171]

概念

内腔が上皮ではなく結合組織で覆われ漿液性の内容物を容れるもので、真性嚢胞に比べて圧倒的に多い。しばしば自然に消失する。真性嚢胞と異なり、癌化の危険はない。 ただし、膵癌や膵膿瘍などとの鑑別を要する。

原因

  • 膵炎
    特に急性膵炎後に血清アミラーゼ高値が持続する場合は本症を疑う必要がある。
  • 外傷性膵損傷

病態生理

膵炎や外傷などで損傷した膵管から膵液が漏出して膵組織を消化する。やがて消化された組織の周辺に肉芽組織が増殖して線維化が生じる。

症状

  • 上腹部痛
  • 腫瘤触知

治療

まずは自然消退を期待して経過観察となるが、消退しない場合にはドレナージを行ない、それでも縮小しない症例は瘻造設術の適応となる。
急性膵炎や外傷性膵損傷に続発するものは自然消失しやすい。一方、慢性膵炎に続発するものは消失しにくく、出血などの合併症の発生頻度が高いため外科治療の適応になりやすい。

  • 食事制限
    食事の脂肪制限が必要となることがある。
  • 瘻造設術
    慢性膵炎に続発するものは消失しにくいため、しばしば外科手術の適応となる。このときはもっとも近接する消化管と嚢胞との吻合術を行 なう。

40.3 膵炎 pancreatitis

典拠:Essentials Radiologic Imaging. 7ed [11, p.539]

40.3.1急性膵炎 acute pancreatitis

典拠:CMDT2003 [26, p.666] ,
典拠:Essentials Radiologic Imaging. 7ed [11, p.539] ,
典拠:標準外科学 8版 [84, p.639] ,
典拠:Pathophysiology [17, p.358] ,
典拠:NIM 消化器病学 4 版 [60, p.636] ,
典拠:組織病理アトラス [82, p.145] ,
典拠:Diagnosis And Treatment In Gastroenterology [10, p.435] ,
典拠:最新内科学大全:膵炎 [40, p.177] ,
典拠:NEW 外科学 2版 [64, p.655]

概念

膵臓腺房細胞の障害によって消化酵素が流出する、外分泌組織の急性炎症である。中高年の男性に好発する。ほとんどが自然治癒するが、MOF や DIC などの重篤な合併症を来たすことがある。特に感染や血腫を合併した場合は外科手術の適応となる。

病因

  • アルコール多飲がもっとも多い
    アルコールは膵臓腺房細胞を障害し、リソゾームを活性化してトリプシンを活性化する。
  • 胆石症
    胆石が総胆管と膵管の合流部である共通管に嵌頓すると、オッデイ括約筋の逆流防止機能が障害されて胆汁が膵管内に逆流する (胆汁逆流説)。胆汁は膵液内のホスホリパーゼ A2 を活性を増強させ、細胞膜を障害する。緊急手術の適応となる。
  • 薬剤
    • フロセミドなどの利尿剤
    • テトラサイクリンなどの抗生物質
    • エストロゲン
  • ERCP
    過度な造影剤の注入は急性膵炎を惹起するため禁忌である。
  • 高脂血症
    • I 型高脂血症, 家族性リポタンパクリパーゼ欠損症
      高カイロミクロン血症による中性脂肪の血中蓄積に起因するが、急性膵炎を発症する機序は不明である。
  • 高カルシウム血症
    膵管にカルシウムが沈着して閉塞を来たす。
  • 腹部外傷
    小児の膵炎の原因として最多である。

病態生理

  • 自己消化
    膵臓の消化酵素が何らかの原因によって活性化され、膵管から漏出して自己消化を生じる。
    • トリプシン
      キモトリプシンをはじめ、エラスターゼやホスホリパーゼ A2 など種々の膵酵素を活性化する。
    • エラスターゼ
      血管壁のエラスチンを分解して出血をもたらす。
    • ホスホリパーゼ A2, PLA2
      胆汁は膵液内のホスホリパーゼ A2 を活性を増強させ、細胞膜を障害する。
    • リパーゼ
      脂肪組織を消化して壊死を来たす。特に血中に漏出したリパーゼは脂肪を分解して脂肪酸を上昇させ、低カルシウム血症や高トリグリセライド血症などの原因となる。
  • ショック
    炎症によって血漿成分が腹腔内や消化管内などの第三腔に移動し、循環血液量の減少と血液濃縮によってショックに陥る。
  • 低カルシウム血症
    消化酵素によって脂肪が分解されると遊離脂肪酸が生じるが、これが血中に漏出するとカルシウムと結合して血中カルシウムが減少する。テタニーによる腹痛や Trousseau 徴候・Chvostek 徴候などの症状が出現する。

症状

急激な心窩部痛として発症する。

  • 心窩部の腹痛
    疼痛は左季肋部から左背部へと拡散する放散痛も生じうる。
  • 皮膚所見
    • カレン徴候 cullen
      膵臓周辺に染み出た血性滲出液が皮下に移動し、臍周辺の皮膚が暗赤色に染まる。DIC を合併しやすい徴候である。
    • Grey-Turner 徴候
      側腹部の皮膚着色斑をいう。
  • 食欲不振
    膵外分泌不全による消化機能障害に起因する。
  • 低カルシウム血症 テタニーによる腹痛や Trousseau 徴候・Chvostek 徴候が出現する。

検査所見

本症を疑ったならばまず血中および尿中のアミラーゼを測定し、異常高値が見られれば画像検査に移行する。なお ERCP は造影剤の注入によって症状が増悪するため、禁忌となる。

  • 尿中アミラーゼの増加
    重症度と相関しないが、急性期には高値をとる。

    • アミラーゼ・クレアチニンクリアランス比 ACCR
      尿量に左右されずにアミラーゼの血中量を評価する指標であり、 急性膵炎では ACCR 値が上昇する。
       {
      ACCR = \frac{amylaseclearance}{Ccr}×100
      }
      
  • 血液検査

    • 炎症所見
      炎症によって白血球数が増加するとともに、血漿成分が第三腔 third space に移動することで血液濃縮をきたし、Hct が上昇する。
    • 血小板減少
    • 低カルシウム血症
      脂肪が分解されて脂肪酸が生じるが、これが血中に漏出すると遊離カルシウムと結合して、血中カルシウムが減少することになる。 Ca2+ は内因性凝固系に関与するので、部分トロボプラスチン時間 APTT が延長する。
    • 高窒素血症
      タンパク異化亢進あるいは合併した消化管出血によって BUN が 上昇する。クレアチニンも上昇していれば腎障害が疑われる。
    • インシュリン不足による一時的な高血糖
    • 高脂血症 血中に漏出したリパーゼによって遊離脂肪酸が増加し、これが肝臓での中性脂肪の合成を促進する。
      • 高トリグリセライド血症
    • 逸脱酵素の増加
      原則として逸脱酵素は病状と相関しないが、ホスホリパーゼ A2 は膵臓特異性が高く比較的重症度とよく相関する。
      • 血清アミラーゼ高値
      • 血中エラスターゼ高値
      • LDH 上昇
  • 腹部 CT 所見
    急性期の重症度判定に有効であり、膵腫大・内部不均一・滲出液貯留 の項目で判定する。
    • 膵腫大
      重症度が増せば内部が不均一となる。膵臓の腫脹が著しいと総胆管の通過障害によって胆嚢の腫大を認める。
    • 滲出液貯留 pancreatic ascites
      第三腔 third space への体液移動であり、大量の滲出液が腹腔内に漏出し、膵臓の辺縁が不明確になる。これらの所見は重症度判定に有用である。
      • 後腎傍腔への液体貯留 fluid collection
      • 胸水貯留
    • 腎筋膜の肥厚
      早期の所見として重要である。
    • 膵仮性嚢胞 pancreatic pseudocyst
      膵管の閉塞によって膵液が持続的に嚢胞内に流入して形成される。
  • 腹部 X 線所見
    合併した小腸の麻痺性イレウスによって次のような特徴的な所見を示 すが、重症度判定には利用されない。
    • sentinel-loop sign
      階段状の niveau を持った小腸イレウス像が膵臓を取り囲むように映る。
    • colon cut-off sign
      膵臓に接した横行結腸が蠕動運動を低下させたために、横行結腸内に見られたガス像が脾彎曲部において突如として途切れる。
  • 腹部エコー
    浮腫状に腫大した膵臓が低エコー領域として描出されるが、しばしば 合併したイレウスによる腸管ガスによって十分な所見が得られないことがある。

合併症

  • 早期合併症
    • 閉塞性黄疸
      膵臓の腫脹が著しいと総胆管の通過障害によって黄疸をきたす。
    • 汎発性腹膜炎
    • 多臓器不全
      MOF 活性化された膵臓の消化酵素によって他の酵素が活性化されて多臓器不全をきたす。特に血中に漏出したホスホリパーゼ A2 が肺の界面活性剤と反応すると ARDS をもたらす。
      • ARDS
      • 腎不全
      • 心不全
    • DIC
  • 後期合併症
    • 膵仮性嚢胞, 仮性膵嚢胞 pancreatic pseudocyst
      膵管の閉塞によって膵液が持続的に嚢胞内に流入して形成される もので、合併症として最多である。血清アミラーゼ高値が持続する場合は本症の合併を疑う必要がある。感染によって膵膿瘍に移行することがあるので、特に 5cm以上の嚢胞は減圧術などの治療の対象となる。
    • 膵膿瘍
      嚢胞への感染によって形成され、緊急に開腹ドレナージの必要がある。

病理所見

  • 脂肪壊死が広範に生じる
  • しばしば広範な出血を伴う
  • 軽度であれば間質性膵炎

急性膵炎の治療

典拠:NIM 消化器病学 4版 [60, p.644] ,
典拠:最新内科学大系:膵炎 [40, p.209]

概念

原則として内科的治療で対処する。

内科的治療

膵酵素阻害剤・抗生物質持続動注療法が第 1 選択の治療法である。ただし急性期のショック状態にあれば輸液や酸素投与などのショック対策が優先することは言うまでもない。

  • 絶食による膵臓保護
  • 輸液
    炎症によって血漿成分が第三腔に移動し、血液濃縮をきたすので、十分な補液が必要となる。
    • 高カロリー輸液による栄養管理とショック防止
  • 酵素阻害剤の投与
    セリンプロテアーゼ阻害剤 FOY の投与。けだしキモトリプシンなどはセリンプロテアーゼだから。
  • H2 受容体拮抗薬の投与
    急性膵炎では膵液の重炭酸分泌が減少し十二指腸内が酸性に傾くため、 胃酸分泌を抑制する必要がある。
  • 抗生剤投与
    感染の続発を予防するために抗生剤を静注投与する。
  • 腹膜還流 peritoneal lavage
    腹腔内にカテーテルを留置し、腹腔内に貯留した有害物質を除去する。

外科治療

感染を合併した場合や血性滲出液によって血腫を形成した場合は保存療法が無効なため、外科手術の適応となる。また胆石症によって急性膵炎となっ た場合も、手術によって緊急に胆石の嵌頓を解除する必要がある。

  • 膵部分切除術
  • 膵壊死部摘除術
  • ドレナージ
    術後に開腹創を閉鎖せずに感染巣の浄化を徹底するために行なう。

40.3.2 慢性膵炎 chronic pancreatitis

典拠:Diagnosis And Treatment In Gastroenterology [10, p.441] ,
典拠:Pathophysiology [17, p.365] ,
典拠:組織病理アトラス [82, p.148] ,
典拠:標準外科学 8版 [84, p.641] ,
典拠:Harrison11 [5, p.1378] ,
典拠:NEW 外科学 2版 [64, p.662] ,
典拠:NIM 消化器病学 4版 [60, p.645] ,
典拠:Essentials Radiologic Imaging. 7ed [11, p.542] ,
典拠:最新内科学大全: 膵炎 [40, p.219]

概念

長期間の炎症によって膵実質細胞が破壊され、膵臓の線維化が起こったもの。初期には外分泌能が障害され、進行すると内分泌能も障害されて糖尿病を合併する。 なお急性膵炎が慢性化することは稀れであるが、慢性膵炎が急性増悪する ことは多い。

病因

  • アルコールの多飲
    本症の原因としてもっとも多く、圧倒的に男性に多い。
  • 特発性
    アルコール性に続いて多く、特に女性に好発する。
  • 胆石症
  • 急性膵炎から発症することは稀れ

分類

  • 石灰化膵炎
  • 鬱滞性膵炎
  • 炎症性膵炎

病期

  • 間欠期
    症状が比較的安定している。
  • 急性再燃期
    激しい疼痛と高アミラーゼ血症を伴う。

病態生理

アルコール性慢性膵炎ではアルコール多飲によって膵外分泌が持続的に亢進し、膵液中のタンパク増加によってタンパク栓 protein plug が形成され る。これが抹消の膵管分枝を閉塞するものと考えられている。

  • 膵外分泌障害
  • 膵内分泌障害
    外分泌よりも内分泌は障害されにくく、病期が進展して明らかになる。

症状

  • 心窩部痛
    疼痛は多くは心窩部に感じられ、左季肋部から左背部へと拡散する放散痛も生じうる。
  • 吸収障害
    膵外分泌の低下により脂肪の吸収障害をきたすからである。
    • 下痢と体重減少
      特に下痢は食後に増悪する。
    • 脂肪便 steatorrhea
      脂肪便は、膵臓の外分泌機能が健常人の 10%以下になって生じることが多い。
  • 糖尿病症状
    インシュリンの分泌低下によって、口渇・多飲・多尿などの糖尿病症状を呈する。

検査所見

  • 腹部単純 X 線写真
    進行例では膵臓の石灰化像 (膵石) が見られ、確定診断となる。
  • 腹部 CT 所見
    膵石や膵臓の石灰化が見られ、膵臓全体は萎縮している。
    • 仮性膵嚢胞
  • ERCP 所見
    膵癌との鑑別が困難な症例に施行される。典型的には拡張した膵管が蛇行し、そのなかに膵石や protein plug が見られ、確定診断となる。膵癌との鑑別は、膵癌では閉塞部位よりも下流の膵管は正常であるという特徴をもつ。
  • 膵臓の逸脱酵素
    慢性膵炎の再燃時には膵酵素の値は上昇し、炎症が消退すると正常化する。しかし末期には逸脱できる酵素自体がなくなるので、血清の酵素量は減少する。このように原則として逸脱酵素は病状と相関しない。
    • 血清リパーゼ上昇
    • 血清トリプシン減少
      20mg/dL 以下の所見は慢性膵炎に特徴的である。
  • 膵外分泌機能検査
    • セクレチン検査 セクレチンは本来ならば重炭酸の分泌を促進する作用を持つが、本症ではセクレチンを静注すると重炭酸塩 HCO の最高濃度が 低下する。これは膵管中に膵液が鬱滞することによって重炭酸塩が Cl と交換されてしまうからである。
    • BT-PABA 試験
      BT-PABA を経口投与すると膵液中のキモトリプシンによって PABA に変換されて小腸から吸収される。その後は代謝される ことなく腎臓から排出されるため、尿中での PABA の排泄率を測定することによって膵臓の外分泌機能を推定することができる。
    • 糞便中脂肪定量
      脂肪の消化不全によって糞便中の脂肪が増加する。
  • 経口ブドウ糖負荷試験 OGTT

病理所見

  • 膵実質の破壊と間質の線維化
    間質にはリンパ球の浸潤が見られる。
  • 結石をともなう膵管の拡張

合併症

  • 糖尿病
    本症に合併した糖尿病ではケトーシスは稀である。
  • 膵仮性嚢胞
    慢性膵炎に続発する仮性膵嚢胞は消退にくく、しばしば瘻造設術の適応となる。
  • 膵石, 膵石灰化

治療

  • 内科的治療
    • 低脂肪食
      脂肪は膵液の分泌を促進して病状を悪化させるから。
    • 胃酸分泌抑制薬
      胃液は膵液分泌を促進する作用を持つから。
  • 外科手術
    内科的に制御不能な場合や膵癌との鑑別が困難な症例が適応となる。
    • 膵管減圧術
      膵液流出障害を改善し、膵管内圧を低下させる目的で行なう。
      • 膵管空腸吻合術
      • 膵管開口部形成術
    • 膵切除術 病変が限局している場合に適応となる。
      • 膵部尾側切除術
      • 膵頭十二指腸切除術

膵石, 膵石灰化

典拠:最新内科学大全:膵炎 [40, p.257]

概念

慢性膵炎の合併症として特徴的である。その主成分は炭酸カルシウムである。

40.4 膵膿瘍 pancreatic abscess

典拠:Essentials Radiologic Imaging. 7ed [11, p.543] ,
典拠:Diagnosis And Treatment In Gastroenterology [10, p.439] ,
典拠:最新内科学大全: 膵炎 [40, p.285]

概念

嚢胞への感染によって形成される。特に急性膵炎後の仮性膵嚢胞に発生するものが重篤化しやすい。

症状

発熱・腹痛・腹部腫瘤を認める。

検査所見

  • 白血球増多
  • 腹部 CT 所見
    膿瘍内のガス像が特徴的な所見である。
  • 穿刺吸引

治療

緊急に開腹ドレナージを行なう。

40.5 膵結石症 pancreatic calculi

40.6 膵損傷 pancreatic injury

典拠:標準外科学 8版 [84, p.638] ,
典拠:NEW 外科学 2版 [64, p.654]

概念

膵臓は後腹膜臓器であるため比較的損傷を受けにくい臓器ではあるが、後腹膜に固定されているため移動性に乏しく、腹壁からの外力で脊椎に挟ま れて高度の損傷を受けることがある。

症状

しばしば重大な膵損傷があっても合併損傷臓器による症状に隠されてしま うことが多い。

  • ショック症状
    出血性ショックあるいは急性膵炎によってショックに陥る。

検査所見

特に腹部 CT が有効である。

合併症

  • 仮性膵嚢胞
  • 膵膿瘍

治療

開放性損傷では全例が手術適応となる。非開放性損傷では総合的に開腹術の適応を決定する。

  • 開腹術
    止血・壊死組織除去・膵液の誘導を行なう。

40.7 高アミラーゼ血症

種類

  • 急性膵炎
  • マクロアミラーゼ血症

40.7.1 ロアミラーゼ血症 macroamylasemia

典拠:NIM 消化器病学 4版 [60, p.641]

概念

血清アミラーゼがグロブリンと結合することによって腎からアミラーゼが 排出されず、その結果として高アミラーゼ血症をきたしたもの。

症状

無症状である

検査所見

  • 血清アミラーゼ高値
  • 尿中アミラーゼ正常
  • ACCR 低値
    これは尿中へのアミラーゼ排泄が滞るため。

40.8 糖尿病 diabetes mellitus,DM

典拠:病理学 [52, p.46] ,
典拠:Pathology NMS [19, p.400]

概念

ランゲルハンス島におけるインシュリンの合成、インシュリンの分泌能の低下、あるいはインシュリンそのものの異常とインシュリンの作用不全などが原因となって、インシュリン作用が欠如もしくは減少した病態。

病態生理

  • 高血糖 hyperglycemia
  • 糖尿 glucosuria
  • アシドーシス
    糖が利用できないため、その代わりにタンパクと脂肪が分解され、産物としてケトン体が生じる。

分類

  • 原発性糖尿病
    • 1 型糖尿病
      膵臓β細胞の破壊によるインシュリンの絶対的な不足。Cペプチドが低値で抗GAD抗体が症例の 8 割で陽性となる。
      • 自己免疫性
      • 特発性
    • 2 型糖尿病
      インシュリン分泌の低下とインシュリン抵抗性が併存する。従来の NIDDM の大部分を指す。家族性が多い。肥満が見られる。
  • 続発性糖尿病
    膵ガンや膵炎によってランゲルハンス島が破壊されたことによって二次的に生じる。

症状

  • 全身倦怠感
  • 糖尿 glucosuria
  • 多尿・頻尿
    ブドウ糖の尿中排泄が増加し浸透圧利尿を来たすため多尿・頻尿となる。
  • 脱水による口渇と多飲
  • 筋力低下
  • アシドーシス
    糖が利用できないため、その代わりにタンパクと脂肪が分解され、産物としてケトン体が生じる。
  • 代謝性アシドーシスによる昏睡
  • 口唇の異常
  • 動揺性歩行

検査所見

高血糖 hyperglycemia となる。

  • ブドウ糖負荷試験が陽性
    75g ブドウ糖負荷試験後の 2 時間値が 200mg/dl 以上もしくは空腹時 で 140mg/dl 以上ならば糖尿病型と診断できる。これに加えて多飲・ 多尿などの症状が加わると糖尿病と診断される。

  • 糖化ヘモグロビン HbA1C
    正常値は 4%から 6%程度。

病理所見

  • 代謝性アシドーシスによる昏睡
  • 白血球の走化性の低下
  • 膵臓での変化
    • 島の萎縮
    • 線維化
    • ガラス様変性 hyalinization

40.8.1 二次性糖尿病, 続発性糖尿病 secondary diabetic mellitus

典拠:Lange: Clinical Endocrinology. 5ed [8, p.611]

概念

膵ガンや膵炎によってランゲルハンス島が破壊されたことによって二次的 に生じた糖尿病をいう。

原因

  • 膵臓疾患
    • 膵臓摘出
    • アルコール多飲による慢性膵炎
    • 急性膵炎
  • 薬剤性
    サイアザイドやフェニトインはβ細胞からのインシュリン分泌を阻害する。糖コルチコイドや経口避妊薬は抹消細胞のインシュリン抵抗性 を促進する。ペンタミジン pentamidine はβ細胞を破壊する。
  • 内分泌異常
    インシュリン拮抗ホルモンの過剰分泌に起因する。
    • 末端肥大症 acromegaly による成長ホルモンの分泌過剰
    • クッシング症候群による糖質コルチコイドの分泌過剰
    • 褐色細胞腫によるカテコラミンの分泌過剰
    • グルカゴノーマによるグルカゴンの分泌過剰
    • ソマトスタチノーマによるソマトスタチンの分泌過剰

40.9 膵臓腫瘍

典拠:組織病理アトラス [82, p.151] ,
典拠:Pathology NMS [19, p.256] ,
典拠:NIM 消化器病学 4版 [60, p.656]

良性腫瘍

  • 嚢胞腺腫 cystadenoma
    • 漿液性嚢胞腺腫
    • 粘液性嚢胞腺腫
      しばしば悪性化して嚢胞腺癌となる。

悪性腫瘍

  • 膵癌
    • 膵管癌, 輸出管細胞癌 ductal cell carcinoma
      膵管上皮細胞から発生する悪性腫瘍で、原発性膵ガンではもっとも多い。
    • 腺房細胞癌, 細葉細胞癌 acinar cell carcinoma
  • 膵内分泌腫瘍, 島細胞癌, ランゲルハンス島癌 islet cell carcinoma
    • グルカゴノーマ glucagonoma
    • インシュリノーマ insulinoma
    • ソマトスタチノーマ somatostatinoma
    • ガストリノーマ gastrinoma
      胃酸の過剰分泌によって Zollinger-Ellison 症候群を招く。
  • 未分化癌

40.9.1 膵臓良性腫瘍

膵嚢胞腺腫 pancreatic cystadenoma

典拠:NIM 消化器病学 4版 [60, p.656] ,
典拠:最新内科学大系: 膵腫瘍 [41, p.170]

分類

  • 漿液性嚢胞腺腫 serous cyst adenoma
    割面が蜂窩状を呈する。
  • 粘液性嚢胞腺腫 mucinous cyst adenoma,mucinous cystic neo- plasm
    しばしば悪性化して嚢胞腺癌となる。

solid cystic tumor,solid and cystic acinar cell tumor, SCT

典拠:最新内科学大系: 膵腫瘍 [41, p.278]

概念

良性の経過を辿る膵外分泌系腫瘍である。中心部壊死と石灰化を伴なう。

40.9.2 膵癌, 膵臓癌 pancreatic cancer

典拠:標準外科学 8版 [84, p.643] ,
典拠:Burdette: Cancer. 1ed [2, p.98] ,
典拠:Diagnosis And Treatment In Gastroenterology [10, p.453] ,
典拠:NIM 消化器病学 4版 [60, p.662] ,
典拠:組織病理アトラス [82, p.151] ,
典拠:ハリソン内科学 [6, p.1532] ,
典拠:最新 内科学大系: 膵腫瘍 [41, p.39] ,
典拠:Essentia ls Radiologic Imaging.7ed [11, p.542] ,
典拠:腹部 CT1 版 [86, p.118] ,
典拠:NEW 外科学 2版 [64, p.668]

概念

ほとんどは膵管上皮に原発する悪性腫瘍である。脈管侵襲が強く、発見が遅れるため予後が極めて不良である。

分類

  • 膵管癌, 輸出管細胞癌 pancreatic ductal cell
    carcinoma 膵管上皮細胞から発生する悪性腫瘍で、原発性膵ガンではもっとも多 い。膵頭部に多く発生する。
    • 管状腺癌
    • 粘液産生腺癌 mucinous carcinoma
    • 乳頭腺癌 papillary adenocarcinoma
      膵癌のなかでは比較的予後が良好なほうである。
    • 嚢胞腺癌
  • 腺房細胞癌, 細葉細胞癌 acinar cell carcinoma
  • 島細胞癌

原因

危険因子に喫煙がある。

病態生理

膵臓は後腹膜腔に位置し、周辺には大血管・胆管・十二指腸・神経叢・リンパ節などが複雑に存在することから、早期に極めて悪性の進展様式を呈 する。

  • 閉塞性黄疸

症状

腹痛と黄疸で初発することが多い。

  • 上腹部の腹痛
    疼痛は左季肋部から左背部へと拡散する放散痛も生じうる。
  • 閉塞性黄疸
    膵頭部に腫瘍が形成された場合は総胆管を閉塞して胆汁鬱滞を生じ、 閉塞性黄疸となる。
    • Courvoisier 徴候が見られることもある
    • 胆管が完全に閉鎖すると白色便
  • 急性の糖尿病症状
    膵尾部に腫瘍が形成された場合は、ランゲルハンス島が破壊されて糖尿病症状を呈する。

検査所見

  • 超音波検査所見
    拡張した膵管がみられる。腫瘍自体は限局性腫大を伴なう低エコー像を呈する。
  • 腹部 CT 所見
    腫瘍は内部の壊死やムチン貯留を反映して低吸収域に描出される。腫瘤像を膵頭部に認めることが多い。
  • 内視鏡的逆行性胆道造影 ERCP
    膵頭部に好発するため、膵管が腫瘤によって閉塞したり、膵液貯留に よって膵管の拡張が見られる。総胆管を閉塞すると拡張した総胆管が 認められる。慢性膵炎との鑑別を要するが、膵癌では閉塞部位よりも下流の膵管は正常であるという特徴をもつ。
  • 腫瘍マーカー
    CEA をはじめ CA19-9 や DUPAN-2 の上昇が見られるが、早期には 陽性になりにくく、陽性になって時点では治癒が不可能なことが多い。
  • 血管造影所見
    • 無血管野 avascular area 病巣には血管が乏しく、病巣周囲では腫瘤による血管の圧排が見 られる。
  • 針生検
    確定診断となる。

治療

膵癌に有効な化学療法は今のところ存在せず、もっぱら外科的切除が施行 される。 * 外科的切除 * 膵切除術 * 膵頭十二指腸切除術 pancreatoduodenectomy
膵頭部癌が適応となる。 * 膵体尾部切除術 * 膵全摘術

膵頭部癌, 膵頭癌 carcinoma of the head of the pancreas

典拠:標準外科学 8版 [84, p.643] ,
典拠:Essentia ls Radiologic Imaging.7ed [11, p.542]

概念

膵頭部に発生する癌腫であり、多くは膵管上皮細胞から発生する膵管癌である。

症状

  • 黄疸
  • 上腹部痛
  • Courvoisier 徴候

検査所見

  • 内視鏡的逆行性胆道造影 ERCP
    膵管の壁不整や閉塞が見られる。膵液貯留によって膵管の拡張が見られる。総胆管を閉塞すると拡張した総胆管が認められる。
  • 腹部 CT 所見
    膵頭部が腫大し、腫瘤は形状が不整で内部不均一である。
  • 腫瘍マーカー
    CEA をはじめ CA19-9 や DUPAN-2 の上昇が見られるが、早期には陽性になりにくく、陽性になって時点では治癒が不可能なことが多い。
  • 血管造影所見
    • 無血管野 avascular area
      病巣には血管が乏しく、病巣周囲では腫瘤による血管の圧排が見 られる。
  • 逸脱酵素
    • 血清アミラーゼ高値

治療

  • 外科的切除
    • 膵頭十二指腸切除術 pancreatoduodenectomy
      膵頭部切除と十二指腸全摘に加えて胃亜全摘・総胆管切除・胆嚢 摘出を行なう。本症をはじめとして、十二指腸乳頭部癌や下部胆管癌などが適応となる。

膵体尾部癌 carcinoma of the body and tail of the pancreas

典拠:標準外科学 8版 [84, p.645] ,
典拠:NEW 外科学 2版 [64, p.669]

概念

膵頭部癌と比べて症状が不定で、診断された時点ですでに切除不能な症例が多い。

症状

上腹部痛あるいは背部痛が主な症状となる。膵頭癌と異なり、黄疸は生じにくい。

検査所見

  • 腹部血管造影
    脾動脈抹消に不整な狭窄像 encasement が見られる。
  • ERCP 所見
    膵管の閉塞や閉塞より抹消側膵管の拡張が見られる。

治療

  • 膵尾部切除術
  • 膵全摘術

40.9.3 膵内分泌腫瘍, 膵島腫瘍 Islet cell tumors of the pancreas

典拠:Burdette: Cancer. 1ed [2, p.103] ,
典拠:Diagnosis And Treatment In Gastroenterology [10, p.459]

概念

膵内分泌器官に原発した腫瘍で、良性・悪性の別を問わない。

種類

  • インシュリノーマ
    膵内分泌腫瘍の中ではもっとも頻度が高い。
  • ガストリノーマ
  • グルカゴノーマ
    悪性化の傾向が強い。
  • ソマトスタチノーマ
  • WDHA 症候群, VIPoma
  • 多発性内分泌腺症,MEN

検査所見

  • 血管造影所見
    膵癌と異なり、造影にて濃染される。

インシュリノーマ insulinoma

典拠:Burdette: Cancer.1ed [2, p.103] ,
典拠:STEP 代謝・内分泌 1 版 [81, p.39] ,
典拠:Pathophysiology [17, p.445] ,
典拠:組織病理アトラス [82, p.150] ,
典拠:NIM 消化器病学 4 版 [60, p.660] ,
典拠:ハリソン内科学 [6, p.1540] ,
典拠:最新内科学大全: 膵腫瘍 [41, p.237]

概念

膵臓β細胞に由来し、インシュリンの過剰分泌により低血糖をもたらす膵内分泌腫瘍である。膵内分泌腫瘍としては最も頻度が高いが、多くは単発性で悪性化傾向は低い。

症状

  • 肥満
    慢性的な低血糖状態に置かれるため、過食して肥満となる。
  • Whipple の三徴
    • 空腹時や運動時の意識障害 syncope
    • 空腹時低血糖 hypoglycemia
    • ブトウ糖投与による劇的改善
  • 慢性低血糖症
    急性低血糖症のような著明な症状はなく、性格変化や異常行動などの精神症状を来たす。インシュリノーマに典型的な症状である。

検査所見

  • 絶食試験
    絶食させると容易に空腹時低血糖に陥る。
  • グルカゴン負荷試験 glucagon stimulation test
    生理的にもグルカゴンを負荷すると代償的にインシュリン分泌が亢進するが、本症では特に反応性が高い。
  • 血中 Cペプチド高値
    Cペプチドは内因性インシュリンとともに分泌されるので、インシュリノーマで上昇する。この検査は血中インシュリン濃度が上昇する他の疾患との鑑別に有効である。なぜなら外来性のインシュリン摂取やインシュリン様成長因子 IGF を産生する腫瘍などではインシュリン濃度は上昇するが、それともに内因性のインシュリン産生が抑制されるため Cペプチドは低値を取るからである。
  • 選択的血管造影, 経皮経肝門脈カテーテル PTPC
    本腫瘍は血行が豊富であり、腫瘍の回りを血管が取り巻いた hypervascular の所見が得られる。
  • 腹部CT 所見
    膵尾部に高吸収域を示す腫瘤影を見る。

治療

画像診断にて局在が明確であり腫瘤も単発性で小さいことが多いので、原則として腫瘍核出術を行なう。

  • 外科的治療
    • 腫瘍摘出術
    • 腹腔鏡下摘出術

グルカゴノーマ glucagonoma

典拠:Burdette: Cancer. 1ed [2, p.106] ,
典拠:Pathophysiology [17, p.447] ,
典拠:NIM 消化器病学 4版 [60, p.661] ,
典拠:ハリソン内科学 [6, p.1541] ,
典拠:最新内科学大全: 膵・ 消化管内分泌 [43, p.315]

概念

ランゲルハンス島のα細胞に由来する、グルカゴン産生腫瘍である。悪性化の傾向が強い反面で原発巣の症状が出現しにくいため、診断時にはしばしば肝転移が完了している。

症状

  • 糖尿病症状が主症状である
    グルカゴンは解糖系抑制と糖新生促進に作用によって血糖値を上昇させる効果を持つ。しかしその程度は軽く、早期発見の契機にはなりにくい。
  • 皮膚紅斑, 壊死性移動性紅斑, 壊死性遊走性皮膚炎 necrolytic migratory erythema
    糖新生促進による低アミノ酸血症が原因であると考えられており、紅斑や水疱が体幹から末梢に広がる。
  • 口内炎
  • 正球性貧血

検査所見

  • 高グルカゴン血症
  • 低アミノ酸血症
    グルカゴンによって活性化された糖新生回路の一部はアミノ酸を材料 にしてグルコースを生成しているから。
  • 高血糖

ガストリノーマ Zollinger-Ellison syndrome, gastrinoma

典拠:標準外科学 8版 [84, p.647] ,
典拠:Harrison11 [5, p.1250] ,
典拠:Diagnosis And Treatment In Gastroenterology [10, p.345] ,
典拠:NIM 消化器病学 4版 [60, p.660]

概念

ガストリン産生腫瘍によってガストリンが過剰に分泌され、その結果、胃酸の過剰分泌によって吸収障害を来たした疾患である。腫瘍は多発性かつ悪性であることが多い。
ガストリンはそもそも幽門部の G細胞で産生されるが、胎生期にはランゲルハンス島でガストリンを産生していた経緯からラ氏島において異所性ホルモン産生腫瘍が生じることになる。

病態生理

ガストリンが過剰に産生されて胃酸分泌が亢進すると十二指腸の酸性化を来たす。酸性化によって膵臓の消化酵素が不活化されるほか、胆汁酸が沈殿して吸収粘膜の破壊を生じる。

  • 十二指腸潰瘍
    十二指腸下行脚に好発し、難治性潰瘍となる。
  • 吸収障害
    低い pH によって膵臓の消化酵素が不活化され、吸収障害をもたらす。

症状

  • 空腹時の上腹部痛
    胃酸分泌の過剰によって再燃性・多発性に消化管の潰瘍が生じる、上部消化管の難治性消化性潰瘍である。
  • 水様性下痢
    低い pH によって膵臓の消化酵素が不活化され、吸収障害をもたらす。

検査所見

  • ガストリン高値
  • セクレチン試験 そもそもセクレチンは G細胞でのガストリンの産生を抑制するが、ガストリノーマでは逆にセクレチン投与によってガストリン分泌が亢進する。
  • 胃液検査
    基礎胃酸分泌量が上昇する。
  • 消化管造影で潰瘍を視認

治療

  • 薬物療法
    • プロトンポンプ阻害剤
  • 膵切除術
  • 胃全摘術
    本症では胃切除ではなく胃全摘によって胃酸分泌を消失させなければならない。

WDHA 症候群, VIPoma

典拠:Lange: Clinical Endocrinology. 5ed [8, p.589] ,
典拠:NIM 消化器病学 4版 [60, p.661] ,
典拠:ハリソン内科学 [6, p.1541]

概念

VIP ホルモンを過剰に産生する膵腫瘍である。VIP はもともと膵臓のホルモンではないため、異所性ホルモン分泌腫瘍である。

症状

  • 水様性下痢
    VIP にはもともと小腸からの水と電解質を分泌を促進する作用がある から。
  • 胃無酸症 achlorhydia
    VIP にはもともと胃酸分泌を抑制する作用があるから。

検査所見

  • 高 VIP 血症
  • 低カリウム血症 hypokalemia
    下痢によって大量のカリウムを喪失するから。

治療

  • 外科療法
    輸液で水分と電解質を補いながら外科的に腫瘍を摘出する。
  • 薬物療法
    VIP の産生を抑制するソマトスタチン誘導体を投与する。

ソマトスタチノーマ somatostatinoma

典拠:Lange: Clinical Endocrinology. 5ed [8, p.590] ,
典拠:NEW 外科学 2版 [64, p.676]

概念

ソマトスタチンの過剰分泌により糖尿病・下痢・胆石症などをきたす膵島腫瘍である。高率に肝転移を生じる悪性腫瘍である。

治療

腫瘍が膵島に限局していれば外科的切除の対象となるが、多くの場合はすでに転移を完了しており、化学療法ならびに放射線療法が施行される。


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