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medical praxis - web版 医学ノート - 国家試験対策

学問の上で大いに忌むべきは、したり止めたりである。したり止めたりであれば、ついに成就することはない。

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血液学 16 溶血性貧血 hemolytic anemia

血液学 血液学-4.貧血
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→ 血液学 目次

Chapter 16 溶血性貧血 hemolytic anemia

典拠:Concise Pathology [13, p.390] ,
典拠:エッセンシャル血液病学 5 版 [54, p.62] ,
典拠:医学生・研修医のための血液病学 [45, p.44] ,
典拠:三輪 - 血液病学 2版 [50, p.638]

概念

溶血性貧血とは、造血能は正常でありながら、赤血球の破壊亢進によって生じる貧血をいう。

溶血性貧血の分類

  • 免疫的溶血 immune hemolysis
    • 自己免疫的溶血
    • 寒冷凝集素症
    • 発作性夜間ヘモグロビン尿症
    • 薬剤による溶血
  • 赤血球酵素異常症
    • G6PD 異常
    • PK 異常
  • 赤血球膜異常による貧血
    • 遺伝性球状赤血球症
    • spur cell anemia
    • 発作性夜間ヘモグロビン尿症
  • 外傷による貧血

症状

  • 脾腫
    赤血球の破壊が脾臓で行なわれるためである。
  • 間接ビリルビンの増加による黄疸
    溶血によってヘモグロビンが多量に生じ、ヘモグロビン分解が亢進するため。
  • ヘモグロビン尿
  • こま音 venous hum
    鎖骨上窩で聴取される持続性の静脈雑音をいう。高度の貧血や甲状腺機能亢進症で心拍出量が増大した際に生じる。体位変換で消失することがあるのが特徴である。

検査所見

  • 血液所見
    • 赤血球の寿命の短縮による赤血球数の減少
    • 網赤血球の増加
    • 血清間接ビリルビンの増加
    • 血管内溶血では遊離のハプトグロビン haptoglobin が減少する
      もともとハプトグロビンはα 2-マクログロブリンの一種であり、 遊離ヘモグロビンと結合する性質を持つ。ヘモグロビンが血管外に漏出したり、尿中に漏出するのを防止する機能を持つ。
      したがって赤血球の崩壊によって溶出した過剰なヘモグロビンが ハプトグロビンと結合すると、遊離のハプトグロビンが減少する。
    • 逸脱酵素
      • LDH 上昇
        赤血球内の LDH が血漿中に漏出し、特に LDH-1 分画が上昇 する。
      • AST 軽度上昇
    • エリスロポエチンの増加
      低酸素血症が引金となって髄内でのエリスロポエチン産生が亢進 する。
  • 尿所見
    • ヘモグロビン尿
    • 尿中ウロビリノーゲンの増加
    • 尿ヘモジデリン陽性

溶血の分類

  • 血管外溶血 extravascular hemolysis
    脾臓や肝臓などの網内系において、抗体の付着した赤血球が抗体のFc部に対する受容体を持つマクロファージに捕獲され、マクロファージ 内で破壊される血管外溶血が溶血の一般的な機序である。抗体は IgG抗体である。
    たとえば、Rh 抗原は抗原密度が低いため、補体による破壊はあまり起こらず、マクロファージによる血管外溶血が生じる。
    • PK 欠乏症
    • 自己免疫性溶血性貧血
    • Rh 型血液不適合
  • 血管内溶血 intravascular hemolysis
    抗体の結合と補体の活性化によって血管内で溶血が生じる。血管外溶血よりも稀。抗体はしばしば IgM 抗体である。遊離ハプトグロビンが減少する。
    • G6PD 欠損症
    • 発作性夜間ヘモグロビン尿症 PNH
    • 発作性寒冷ヘモグロビン尿症 donath-landsteiner antibody
    • ABO 血液型不適合輸血
    • waring blender syndrome

16.1 免疫学的機序による溶血性貧血

典拠:三輪 - 血液病学 2版 [50, p.712] ,
典拠:HematologyNMS [2, p.103]

分類

  • 自己免疫性
    • 温式抗体による
      温式抗体とは、体温付近で最大活性を持つ抗体で、ほとんどが IgG である。IgG抗体と結合した赤血球は網内系の貪食細胞が持つIgG の Fc受容体によって認識され、原則として血管外溶血する。
      • 自己免疫性溶血性貧血
    • 冷式抗体による
      冷式抗体とは、低温でも赤血球と結合する抗体のことで多くはIgM抗体である。
      • 寒冷凝集素症
      • 発作性寒冷ヘモグロビン尿症
        例外的に IgG の冷式抗体である Donath-Landsteiner抗体が原因となる。
  • 同種免疫性
    • 不適合輸血
    • 新生児溶血性疾患
  • 薬剤誘発性
    • 免疫複合型
    • ペニシリン型
    • 自己抗体型

検査法

  • クームス試験 Coombs test
    常温で赤血球に対する抗体活性を持つ IgG 由来の抗体 (不完全抗体) を測定する方法。抗補体を用いたクームス試験もある。
    • 直接クームス試験
      赤血球表面の抗体を検出するテスト。自己免疫性溶血性貧血で陽性となる。
    • 間接クームス試験
      血清中の抗体を検出するテスト。

16.1.1 自己免疫性溶血性貧血 autoimmune hemolytic anemia, AIHA

典拠:Beck:Hematology [1, p.235] ,
典拠:Concise Pathology [13, p.299] ,
典拠:三輪:血液病学 2 版 [50, p.712] ,
典拠:医学生・研修医のための血液病学 [45, p.52] ,
典拠:NIM 血液病学 4 版 [48, p.91] ,
典拠:最新内科学大全:貧血・多血症 [35, p.285]

概念

広義では、「自己赤血球膜上の抗原に対して自己抗体が産生され、抗原抗体反応の結果として赤血球の減少を来たす疾患」。すなわち II 型アレルギー反応である。 狭義では、「自己抗体が体温付近に最大活性を持つ温式抗体によるもの」。こ のセクションでも狭義の意味で用いるため、冷式抗体が原因となる発作性寒冷ヘモグロビン尿症と寒冷凝集素症が除外される。

原因

基礎疾患として膠原病を持つことが多い。

病態生理

  • 温式自己抗体による自己免疫性
    自己の赤血球膜上の抗原に対して自己抗体 (温式抗体の IgG) が産生さ れ、膜表面で抗原抗体反応が生じた結果、補体や網内系が関与して溶血する。
  • 血管外溶血
    まず自己の赤血球膜上の抗原がマクロファージの IgG Fcレセプター によって捕捉される。すると、マクロファージの貪食によって網内系において赤血球が除去される。

検査所見

  • 直接クームス試験陽性
    赤血球膜に結合した抗体や補体を検出する試験であり、自己免疫性溶 血性貧血では陽性となる。
  • 溶血性貧血としての所見
    • 血清 LDH の上昇
    • 網赤血球の増加
    • 遊離ハプトグロビンの低下
    • 間接ビリルビン優位

合併症

  • Evans 症候群
    自己免疫性溶血性貧血に特発性血小板減少性紫斑病を合併したものをいう。

治療

副腎皮質ステロイドが第 1 選択となる。 * 薬物療法 * 副腎皮質ステロイド * 免疫抑制剤 * 外科療法 * 脾摘

16.1.2 寒冷凝集素症 cold agglutinin disease, CAD

典拠:Concise Pathology [13, p.400] ,
典拠:エッセンシャル血液病学 [53, p.96] ,
典拠:医学生・研修医のための血液病学 [45, p.54]

概念

低温域で作用する、補体結合性のある IgM 自己抗体 (寒冷凝集素) による溶血性貧血である。寒冷凝集素はマイコプラズマ肺炎や悪性リンパ腫でしばしば出現する。

病態生理

  • 寒冷凝集素
    体温では抗体活性はないが、30~35 度以下で自己の赤血球に対する抗体活性が出現し、温度が低下するにつれて活性が増強する抗赤血球抗体。赤血球の I 抗原に対する抗体であり、ほとんどが IgM 由来の完全抗体である。

症状

  • 冬季に増悪
    寒冷暴露によって血球凝集による循環障害が生じる。特に四肢末端のチアノーゼやレイノー現象 Raynaud を呈する。
  • ヘモグロビン尿

治療

  • 保温
  • 副腎皮質ステロイド

16.1.3 発作性寒冷ヘモグロビン尿症 paroxysmal cold hemoglobinuria, PCH

典拠:Beck:Hematology [1, p.253] ,
典拠:Concise Pathology [13, p.401] ,
典拠:医学生・研修医のための血液病学 [45, p.54] ,
典拠:三輪 - 血液病学 2版 [50, p.721,p.740]

概念

冷式抗体でかつ補体と親和性を持つ Donath-Landsteiner 抗体によって生じた血管内溶血である。

病態生理

まず、Donath-Landsteiner 抗体が赤血球に結合する。つぎにこの抗体が補体成分 C1 を結合すると、古典経路が活性化されて血管内溶血を生じる。

  • Donath-Landsteiner 抗体
    15 度程度の寒冷条件で作用する IgG の冷式抗体であり、補体 C1 と結合する性質を持つ。

症状

寒冷に伴って溶血発作とヘモグロビン尿をきたす。

検査所見

  • Donath-Landsteiner 試験
    患者血清と正常赤血球を 4度の低温状態に保ち、その後 37 度まで温める。このとき赤血球外に遊離ヘモグロビンが出現すれば陽性である。

治療

  • 副腎皮質ステロイド

16.1.4 発作性夜間ヘモグロビン尿症 paroxysmal nocturnal hemoglobinuria, PNH

典拠:病態生理できった内科学:血液疾患 2 版 [47, p.56] ,
典拠:Beck:Hematology [1, p.278] ,
典拠:エッセンシャル血液病学 5版 [54, p.59] ,
典拠:医学生・研修医のための血液病学 [45, p.57] ,
典拠:三輪 - 血液病学 2版 [50, p.482] ,
典拠:NIM 血液病学 4 版 [48, p.106] ,
典拠: 最新内科学大全:貧血・多血症 [35, p.301]

概念

後天的な造血幹細胞の障害により赤血球膜が補体に高い感受性を獲得した ために、赤血球に補体が結合して血管内溶血を生じる。

病態生理

  • 溶血性貧血
    赤血球膜異常症の中では例外的に後天性溶血性貧血である。幹細胞の時期に GPI アンカーに異常を来たしたために、CD55 などの補体抑制タンパクが赤血球膜上に欠損した血球が産生される。こうした血球は補体感受性が亢進しており、容易に補体によって膜透過性の破綻を来たす。 造血幹細胞の突然変異によるため、特に再生不良性貧血の成立過程で出現することがある。
  • 汎血球減少
    なおこのような補体感受性の亢進は赤血球のみならず、顆粒球や血小板にも認められるため汎血球減少を来たす。

症状

  • 溶血性貧血
    溶血はしばしば夜間に起こり、暗赤色に着色したヘモグロビン尿が翌朝にみられる。夜間に溶血が亢進するのは低換気でアシドーシスになると補体が赤血球に結合しやすくなるためである。
    • ヘモグロビン尿
      ヘモグロビンが体外へ排出されるため、つづいて血清鉄の減少が 生じる。
  • 血栓症
    肝静脈などに血栓を形成する。これは補体による血小板の活性化や赤血球の破壊によって放出された ADP が血小板凝集を促進するからである。

検査所見

  • CD55 陰性
  • 汎血球減少 pancytopenia
    補体感受性の亢進は赤血球のみならず、顆粒球や血小板にも認められるから。
  • 好中球アルカリホスファターゼ LAP, NAP 活性が低下
    CML と並んで LAP, NAP が減少する数少ない疾患であり、特に再生不良性貧血との鑑別に有効である。
  • Ham 試験陽性
    もともと補体の赤血球に対する結合性は弱酸性下のほうが強くなるため、患者の血清を酸性にすると抗体が存在しなくても補体が活性化されて溶血を生じる。
  • ショ糖溶血試験 (砂糖水試験) 陽性 sucrose hemolysis test
    砂糖水ではイオンが少ないために補体が赤血球と結合しやすくなる。

合併症

  • 静脈血栓症
    • Budd-Chiari 症候群
      欧米では本症の死因として最多である。
    • 肺塞栓症
  • 再生不良性貧血

治療

貧血や鉄欠乏などに対する対症療法しかない。重症の場合には骨髄移植を行う。

  • タンパク同化ステロイド療法
    造血能を刺激する。
  • 輸血
    補体が含まれていない洗浄赤血球を輸血する。
  • 骨髄移植

16.1.5 薬剤誘発性溶血性貧血 immune drug-induced hemolysis

典拠:Concise Pathology [13, p.403]

種類

  • 薬剤依存性抗体型 (免疫複合型)
    薬剤ないしその代謝産物が赤血球膜と結合し、形成された複合体が抗原性を獲得する。抗体はしばしば IgM で、補体の活性化を生じる。薬剤の投与で急激に発症し、血管内溶血を生じ、急性腎不全を招く。副腎皮質ホルモンは無効。
  • ペニシリン型 (薬剤吸着型)
    ハプテンである薬剤が赤血球と結合して抗原性を獲得する。特にペニシリンやセファロスポリンを使用したときに亜急性に発症する。
  • 自己抗体型 (αメチルドパ型)
    機序は不明だが、薬剤長期投与によって自己赤血球に対する自己抗体が出現する。

16.1.6 血液型不適合輸血, 異型輸血 hemolytic blood transfusion

典拠:Concise Pathology [13, p.401] ,
典拠:標準救急医学 3 版 [69, p.180] ,
典拠:エッセンシャル血液病学 5 版 [54, p.90]

概念

不適合な赤血球に抗体が付着すると補体系が活性化される。ABO 式不適合輸血の症状がもっとも重篤である。

種類

  • IgM 抗体の場合は、即時性に血管内溶血を生じる
    IgM 抗体は容易に補体を活性化させて、即時性に血管内溶血を生じる。主にABO 不適合輸血の場合である。
  • IgG 抗体の場合は、遅発性に血管外溶血を生じる
    主に Rh 式血液型不適合輸血の場合。

病態生理

  • ショック
  • DIC
  • 腎性腎不全

症状

血管内溶血では輸血約 10 分後に顔面紅潮・発熱・低血圧をもって発症する。

  • 腎性無尿

検査所見

  • 高ビリルビン血症
    ABO 式血液型不適合では直接ビリルビン優位であり、Rh 式血液型不適合では間接ビリルビン優位となる。

ABO 血液型不適合

病態生理

ABO 型抗原に対する抗体は通常では IgM 抗体に属するため、補体を活性化しやすい。

  • 血管内溶血
    赤血球が破壊されると血栓形成物質が放出され、血管内凝固が進行する。さらに補体の活性化によりアラフィラトキシン (C3a,C5a) が形成され、血管透過性亢進・平滑筋収縮・ヒスタミン放出などを来たす。
    • 急性尿細管壊死による急性腎不全
    • DIC

症状

感作直後に輸血されている血管に沿って熱感・疼痛を生じ、全身症状としてはめまい・頻脈・血圧低下などを呈する。 * 輸血部位の静脈の灼熱感 * 胸部圧迫感 * 腎性無尿

Rh 式血液型不適合

概念

IgG 抗体であるから補体を活性化させず、遅発性に血管外溶血を生じる。

病態生理

  • 血管外溶血
    網内系で溶血する。

16.1.7 遅発性溶血反応 delayed hemolytic transfusion reaction, DHTR

典拠: 北大:輸血学 1 版 [61, p.154]

概念

輸血後数日から 2 週間ほどのあいだに、レシピエントが輸血赤血球に対して新たな不規則抗体を産生したために溶血反応を生じたものである。したがって事前の不規則抗体検査では検出できない。

新生児溶血性貧血 hemolytic disease of the newborn, HDN

典拠:三輪 - 血液病学 2版 [50, p.744] ,
典拠:HematologyNMS [2, p.278]

概念

母児間に血液型の不一致がある場合で、母体が胎児赤血球のみがもつ血液型抗原に感作されるとそれに対する IgG 抗体が生じる。IgG 抗体は胎盤を通過できるので、胎盤を介して胎児に移行し、胎児赤血球を傷害する。 母子間血液型不適合を狭義の新生児溶血性貧血といい、特にABO 式血液型 不適合妊娠が原因として最多である。

種類

  • 母子間血液型不適合
    • ABO 式血液型不適合妊娠
      一方で ABO 型抗原に対する抗体は通常では IgM 抗体に属する。 この抗体は胎盤を通過しないので通常では問題を生じない。しか し AB 型抗原に対して IgG 抗体を産生する母体があり、この場合は胎盤を通過して胎児に血管内溶血をもたらす。出生後も胎児血中に残存する母体の抗体の作用によってしばらく溶血が持続する。
    • Rh 式血液型不適合妊娠
      Rh 型に対する抗原はタンパク抗原であり、輸血や出産で他人の赤血球が体内に侵入してはじめて抗体が造られる。この抗体は IgG に属するため、胎盤を通過しうる。したがって母児間で Rh 型が異なると分娩時に母体が胎児血で感作され、二児目の妊娠時に胎盤を通過して胎児に溶血性貧血や胎児水腫をもたらす。
  • 異常ヘモグロビン症
  • 遺伝性球状赤血球症
  • 赤血球酵素異常症

検査所見

  • クームス試験
    母体に関しては間接クームス試験が陽性となり、患児に関しては直接クームス試験が陽性となる。

16.2 機械的機序による溶血性貧血

16.1.2 赤血球破砕症候群 red cell fragmentation syndrome

典拠:医学生・研修医のための血液病学 [45, p.61] ,
典拠:エッセンシャル血液病学 [53, p.106]

概念

機械的機序により赤血球が崩壊して 血管内溶血性の貧血 を生じる症候群で ある。

原因

赤血球が循環系で機械的障害を受けると、断片化赤血球が抹消血へ出現する。 * 微小血管の異常 microangiopathic hemolytic anemia * 血栓性血小板減少性紫斑病 TTP * 溶血性尿毒症症候群 HUS * 心臓・大血管の異常 macroangiopathic hemolytic anemia
人工弁や弁膜症によって赤血球が機械的に破壊される。

検査所見

  • 末梢血所見
    破砕赤血球が特徴的である。

溶血性尿毒症症候群 hemolytic uremic syndrome

典拠:MorningReport [26, p.76] ,
典拠:標準小児科学 3 版 [60, p.518] ,
典拠:病態生理できった内科学:血液疾患 2 版 [47, p.205] ,
典拠:最新内科学大系:貧血・多血症 [35, p.318] ,
典拠: 最新内科学大系:血液・造血器疾患 [39, p.102]

概念

乳幼児から小児に急激に発症する、溶血性貧血・血小板減少症・腎不全を特徴とする症候群である。原因のほとんどは出血性大腸炎に起因する。病態は血栓性血小板減少性紫斑病に類似するが腎障害がより強い。

病態生理

  • 病因

    • 出血性大腸炎
      腸管出血性大腸菌のベロ毒素が乳幼児の腎血管内皮に豊富に存在する受容体に結合して内皮細胞を傷害する。これが契機となって形成された血栓が腎血管に蓄積する。
  • 機序

    • 急性腎不全
      大腸菌が産生するベロ毒素が特に腎血管の内皮細胞を傷害し、血栓形成を促進する。これが契機となって形成された血栓が腎血管に蓄積し、急性腎不全に発展する。組織学的には半月体形成をみる。
    • 微小血管障害性溶血性貧血
      血管内皮細胞が障害されると組織因子や vWF が放出されて血栓形成が促進される。血栓によって狭窄した血管内を赤血球が通過すると機械的に破砕されて血管内溶血を来たす (赤血球破砕症候群)。

症状

症状は血栓性血小板減少性紫斑病とほぼ同じであると考えられているが、特に腎障害が強い。

  • 急性腎不全
  • 溶血性貧血
  • 神経症状
    脳血管内皮の障害による脳梗塞、血管透過性の亢進による脳浮腫などを来たす。

治療

急性腎不全への対処を行う。すなわち早期から人工透析を行なう。

  • 血漿交換療法
    ベロ毒素の除去を目的とする。

16.2.2 行軍ヘモグロビン尿症 march hemoglobinuria

典拠: 三輪 - 血液病学 2版 [50, p.761]

定義

体の一部を堅いものに打ち付けることのより赤血球の破壊が起こる。

16.3 先天性溶血性貧血

16.3.1 赤血球膜異常症

典拠: エッセンシャル血液病学 5 版 [54, p.63]

遺伝性球状赤血球症 hereditary spherocytosis, HS

典拠: 病態生理できった内科学:血液疾患 2 版 [47, p.55] ,
典拠:Beck:Hematology [1, p.266],
典拠:医学生・研修医のための血液病学 [45, p.48] ,
典拠:最新内科学大全:貧血・多血症 [35, p.236] ,
典拠:エッセンシャル血液病学 5 版 [54, p.63] ,
典拠:Williams Hematology.5ed [6, p.536]

概念

赤血球膜の骨格タンパクであるアンキリンやスペクトリンの異常により、赤血球の円盤様構造が失われて球状を呈し、脾臓によって溶血をきたす血管外溶血性貧血である。遺伝形式は常染色体優性遺伝であり、日本では先天性溶血性貧血のうちでもっとも頻度が高い。

病態生理

  • 病因
    赤血球上にある膜タンパクのつながりの異常に起因する。膜タンパクの異常を原因として血球内の Na+ が増加すると Na+-K+ATPase が活性化される。これは ATP を用いて細胞内の過剰な Na+ を搬出する機能 を持つから、ATP の減少をもたらす。ATP が枯渇すると水と Na+ が 赤血球内に侵入し、浸透圧抵抗が減弱化して赤血球が球状に変形する。
  • 血管外溶血
    球状赤血球は変形能を喪失するため、脾臓内で捕捉されマクロファージによって貪食される。

症状

  • 溶血性貧血
  • 脾腫と肝前性黄疸
    変性赤血球は脾臓に囚われて溶血し、間接ビリルビンが増加する。間接ビリルビンが胆嚢に蓄積するとビリルビン胆石症を合併する。
    • 腹痛

検査所見

球状赤血球は浸透圧変化に弱い点を利用した、浸透圧抵抗試験を行なう。 * 浸透圧抵抗試験, 赤血球脆弱化試験 osmotic fragility test * 末梢血所見 * 球状赤血球 spherocyte
小形で中心部の濃染する赤血球である。遺伝性球状赤血球症をはじめ、自己免疫性溶血性貧血・G6PD 欠乏症において見られる。

合併症

  • 急性赤芽球癆による低形成発作 aplasic crisis
    感染を契機として著しい貧血の増強をもたらすものをいう。特にパルボウイルスB19 は好んで赤芽球に感染する。
  • ビリルビン胆石症
    変性赤血球は脾臓に囚われて溶血し、間接ビリルビンが増加する。間接ビリルビンが胆嚢に蓄積するとビリルビン胆石症に発展する。

治療

摘脾が奏効する。このため理論的には有効と考えられる骨髄移植は適応を欠く。

  • 摘脾
    脾摘によって赤血球の寿命が延長し、貧血が改善される。ただし小児では術後に感染症を合併しやすいので、その手術時期は慎重に決定されるべきである。

16.3.2 赤血球酵素異常による溶血性貧血

典拠:エッセンシャル血液病学 [53, p.101] ,
典拠:NIM 血液病学 4 版 [48, p.113]

概念

アミノ酸の一次構造に異常があり、酵素活性が低いか分子構造が不安定なために早期に活性を失いやすく、その結果として赤血球の代謝に異常を来たして溶血に至る。

分類

  • 解糖系
    • ピルビン酸キナーゼ欠乏症
      解糖系の酵素異常症としては最多。
    • ヘキソキナーゼ欠乏症
  • ペントースリン酸回路の異常
    • グルコース6リン酸脱水素酵素 G6PDH
      先天性赤血球酵素異常症の中でもっとも頻度が高い。
  • ヌクレオチド代謝の異常
    • ピリミジン 5’ ヌクレオチダーゼ欠乏症
    • アデノシンデアミナーゼ異常症
    • アデニル酸キナーゼ異常症

ピルビン酸キナーゼ欠乏症 pyruvate kinase deficiency

典拠:Beck:Hematology [1, p.297] ,
典拠:NIM 血液病学 4 版 [48, p.113] ,
典拠:エッセンシャル血液病学 [53, p.102] ,
典拠:HematologyNMS [2, p.106] ,
典拠:三輪:血液病学 2 版 [50, p.686]

概念

嫌気性解糖系ではもっとも頻度の高い酵素異常症。

病因

単一塩基置換による異常酵素の産生に起因する。

特徴

  • 常染色体劣性遺伝をなし、ヘテロ型では異常がない
  • 他の血球ではアイソザイムが異なるため、赤血球以外の異常はない

病態生理

解糖系において ATP を産生する酵素であるピルビン酸キナーゼが先天的に 機能不全に陥っているため、ATP の産生が低下してエネルギー代謝に破綻を来たす。 ピルビン酸キナーゼはホスホエノールピルビン酸のリン酸を ADP に移し、 pyruvate とともに ATP を生成する酵素であるが、この活性が低下すると ATP 産生が減少するとともに解糖中間体 (特に 2,3-DPG) が蓄積する。

  • ATP 産生の減少による血管外溶血
    1. ATP 産生低下による K+ の放出
    2. 脱水によって有棘赤血球へと変形する
    3. 脾内の網内系細胞に補足されて血管外溶血を招く

特にピルビン酸キナーゼ欠乏症は網赤血球の状態での溶血が生じやすい。これは網赤血球のほうが成熟赤血球よりも消費エネルギーが大きく、しかも表面が粗雑なために脾臓で捕捉されやすいからである。

  • 2,3-DPG の増加
    赤血球内で 2,3-DPG がヘモグロビンと結合すると、構造変化を介して酸素親和性を低下させる (酸素飽和曲線の右方シフト) ので組織への酸素供給を促進する。このため 2,3-DPG の増加は貧血を幾分軽減する作用がある。

治療

根本的な治療はなく、貧血に対する対症療法として適宜赤血球輸血を行う。

グルコース 6 リン酸脱水素酵素異常症 G6PD deficiency, favism

典拠:Beck:Hematology [1, p.286] ,
典拠:ConcisePathology [13, p.393] ,
典拠:三輪 - 血液病学 2版 [50, p.692] ,
典拠:Hematology NMS [2, p.105] ,
典拠:エッセンシャル血液病学 5 版 [54, p.65] ,
典拠:NIM 血液病学 4 版 [48, p.120] ,
典拠:血液細胞アトラス 4 版 [65, p.114]

概念

G6PD 異常症は、G6PD 酵素の異常によって血管内溶血を来たす遺伝性疾患である。先天性赤血球酵素異常症の中でもっとも頻度が高く、X 連鎖性の遺伝性疾患であるため特に男性に多い。
G6PD はペントースリン酸回路において NADP を NADPH へ還元し、還元型グルタチオン量を一定に保つことによって赤血球内のタンパクを酸化から防御する。特にメトヘモグロビンの還元に寄与する。

特徴

  • X 連鎖性なので男性に多い
  • アフリカ黒人に好発する
  • ソラマメの摂取2や抗マラリア剤などの酸化的薬剤の服用後に発症する
    多くの酸化剤は通常では GSH によって還元されるが、G6PD 欠乏症では還元されないままにヘモグロビンを酸化してメトヘモグロビンを 増加させる。

病態生理

ペントースリン酸回路の不全のために容易にヘモグロビンが酸化されて Heinz小体を形成し、溶血に至る。

  • NADPH の不足によってメトヘモグロビン化する
    赤血球の骨格タンパクが酸化されて膜が変形し、球状赤血球 spherocyto となり、脾臓で捕捉されて血管外溶血を来たす。
  • 血管内溶血を来たす
    膜上の脂質が酸化されて血管内溶血を来たす。

症状

  • 溶血性貧血

検査所見

  • Heinz 小体
    グロビンが変性したものであり、メチルバイオレット染色で顕現する。 赤血球膜に付着し、赤血球の形状を変性する。

ピリミジン 5’ ヌクレオチダーゼ P5’N 欠乏症 pyrimidine-5’-nucleotide deficiency

典拠:Beck: Hematology [1, p.297] ,
典拠:NIM 血液病学 4 版 [48, p.123]

概念

遺伝的要因によってピリミジンヌクレオチドを cytidine ならびに uridine へと分解する酵素の活性が低下したことで、赤血球内にメッセンジャーRNA とリボゾームRNA の不完全分解物である好塩基性斑点 basophilic stippling が蓄積する疾患。


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